“身に覚えのない理由で婚約破棄されましたけれど、仮面の下が醜いだなんて、一体誰が言ったのかしら?”
身に覚えのない理由で婚約破棄されましたけれど、仮面の下が醜いだなんて、一体誰が言ったのかしら? 1/小鳩 ねねこ/猫側 縁 | 集英社 ― SHUEISHA ―
なかなか癖があって面白い。原作の紹介文で書かれている通りに、タイトルの要素は引きずらずに一巻相当でスッと終わってしまう。その点“悪役令嬢の矜持”と似た構図だといえよう。ではその出オチの後で何をするのか。そこが作者の腕の見せどころだろう。
この作品では従兄弟、再従兄弟との関係、そして「番」という概念をめぐる、執着の物語へと展開していく。この「番」という概念は、とあるジャンルの存在を知っていればおおよその見当はつくが、その詳細が明示的に語られるのはなんと3巻の終盤だ。そうでなくてもこの作品、一話時点では魔法が存在する世界であるとも明示されないのだ。だからたとえば6話の終盤、牢獄でのシーンで私は何が起きてるのかわからなくて混乱した。意地悪に言ってしまえばちょっと不親切だ。ただ、良く言えばジャンルの前提知識をアドヴァンテージとして活かしているし、気を抜けない緊張感が心地よい。流石に贔屓目が過ぎるか? それを差し引いたところで、冷酷に振る舞うことさえためらわない人々の愛と執着をめぐる動学に魅力を感じた作品だ。ものすごく積極的に他人へ勧めるかと言われると一寸ためらうが、私は楽しい。