特定小型原付をそこまで嫌う必要があるのか

規制緩和以来、特定小型原付に対するヘイトが高まる一方だ。最近では、LUUPが導入する座席付きの車両に対し「こんなの実質無免許で乗れるスクータじゃないか」という批判が殺到していた。個人的にはこの世の中の流れがどうもしっくりこない。

まず、この乗り物は脱法的なものではない。法律上、特小原付を規定するのは電動機の出力、大きさ、速度、AT、最高速度表示灯だ。大きさについては普通自転車を踏襲したもので、車輪の大きなモデルやスクータ型のモデルの登場を妨げるものではなかったし、メディアにおいても法律施行当初の2023年7月から「フル電動自転車」の登場が想定されていた。他にも、スズキが展示会へ参考出品していたモデルについては概ね好評だったと認識している。

車両の危険性で言うなら、むしろキックボードタイプの方が高いだろう。私も乗ったことがあるが、車輪が小さく不安定で、旋回特性もクイックすぎて扱いづらい。立ち乗りだから身体を支えることも難しい。あれでフルブレーキをするのは相当な恐怖を伴うはずだ。免許のない人なら尚更だ。無論、今の「フル電動自転車」タイプが一番いい解であるとは限らない。特に、速度を6km/hへ制限することで歩道走行が可能な特例特小原付に関して言えば、低速でバランスを取るのが難しいという人も相当数存在するはずだ。先に挙げたスズキのスズライド/スズカーゴやホンダ系のストリーモのような車輪が多いタイプが多く選ばれる時がくるかもしれない。とは言えそれも特小原付一般を否定する理由にはならない。

対自転車で見ても、特別に特小原付が危険であるとは一概には言えないだろう。たとえば電動アシスト自転車の草分け的存在であるヤマハ発動機からPAS Withを取り上げると、総重量が26kg以上ある。チャイルドシート装着モデルならもっと重いだろう。LUUP導入予定のモビリティは29kgで、レンジとしては大差がない。また、電動アシスト自転車の大半が備えるのはシティサイクル向けブレーキで、制動力に限界があることも考慮すべきだ。さらに、電動アシスト自転車は24km/hまでアシストが有効である上に、出そうと思えばそれ以上の速度も出せてしまう。加速操作については確かに危ない面がある。あんまり軽く操作できるようだと危険だ。これはまったくもってその通り。電動アシスト自転車も漕ぎ出しで想定以上に加速してしまうという事例はあるようなので完全無罪ではないが、それこそこれは原動機がついたどのモビリティにも言えることで、なんなら四輪車においても問題になっているのだから、相対的に事故が起こりにくそうな自転車については難癖扱いされてしかたない。

要するに、危険と言われる点に関しては、他のモビリティとも共通する点が多いのではないか、ということだ。特小原付固有の問題があるかと問われたなら、説得力のある回答をするためには吟味して答える必要があるだろう。たとえば、ヘルメットが努力義務なのは自転車も特小原付も同じだ。速度域や走り方が類似しているのだから、規制が同一であると言う点においては妥当だろう。個人的にはどちらも義務化が相応しいと思うが。法令を順守した走り方についても、自転車でも原付でも、あるいは(大半の人が)高い金と長い時間を費やして教習所へ通って免許を取ったのであろう四輪車や二輪車でさえ、「あんたら何を学んで来たんだ?」という走りをする運転者を見ない日はない。特に信号無視や走行帯違反については自転車やスクータも相当だ。なんなら速度リミッタがあるために速度超過は原則ありえない分だけ特小原付はましだとさえ言い得る。歩道走行についてはたしかに問題だ。もし走るのなら、合法的な場所で6km/h制限モードを遵守し歩行者を優先してくれと切に願う。が、しかし同時に、電動アシスト自転車がフルスピードで歩道走行している現状も無視すべきではないだろう。品質や体験の悪い特小原付、違法脱法電動モビリティについても心底やめてほしいが、これも特定小型原付の問題ではない。メーカは良い製品を責任もって提供してほしいし、店やユーザはそのモビリティがいかなるものであるかをしっかりと理解した上で運用しなければならない。

最後に感想文。本来は特定小型原付くらいの乗り物を原付、まさに「原動機が付いた自転車」として位置付けるべきで、単純な走行性能だけ見れば幹線道路でさえ車と並走できるだけの能力を持つ 原付 スクータはあまりにも立派すぎた。かれらはまさしく自動二輪限定免許を要する原付二種が相応しい乗り物だろう。かといって自転車では不便すぎる、その需要を埋めるモビリティの登場は妥当だろう。あとは他のモビリティ共々、走行環境の整備や取り締まりの実施が推進されてほしい。とはいえ、私が生きている間に自転車も安全に走れる道ばかりになるとは思えないのだけれど。