完璧で究極のRecreation

YouTubeは人並みに見るほうだと思う。MRIの危険に関する教育とか、船舶用エンジンを試運転する動画とか、実写版ブルーアーカイブ(ではない)とか。

先日、新しい配信者に出会った。特徴のある笑い方がかわいい。ビジュアルもかわいい。これだけうまくしゃべれる人なのだから、おそらくは芸能関係の訓練を受けてきた人であろう。いかん、ガチ恋しそう。いや、しない。なぜならガチ恋になることはこわい。防衛機制? そうでしょうね。好きになってのめり込むのがこわい。害オタになってしまう。

YouTuberなんて接客業やアイドル、(露悪的に言えば)風俗業と同じような感情労働の職業であり、収入のために愛想をふりまくプロフェッショナルであり、程度の差は大いにあれどキャバクラやメンコン、ホストクラブのように色恋営業と疑似恋愛で骨までしゃぶりつくす狩人だ(言い過ぎでは?)。見せたいとこだけ見せてる相手の一面だけを見続けて何がわかる? 突然退社です引退です卒業ですとなって、後に何が残る?

こうして流行に疎い私にまでリーチした時点で多くの人の注目を浴びているわけだし、そもそも配信者なんて魅力のある人がやるのだから、それを追いかけたところで相手がこちらを一瞥することすらあり得ない。非対称以前に一方通行だ。私がどんなにのめりこもうとも、その目がこちらへ向けられることはない。注目を浴びようとする努力は基本的に無駄に終わる。結局のところ、どこまでいっても彼らは私ではない誰か――あるいはそういう物言いが不適切なら彼ら自身――のものだ。

だから、アイドルにしろVTuberにしろ、そのような人を推してのめりこむ人の気持ちは、正直よくわからない。ある人物について好意的である、好きだというのは分かる。でも、恋をしても無駄だと思ってしまう。どんなにグッズを買い集め祭壇を構築し缶バッジで鎧を作り上げようとも、私たちは単なる数字、文字列、ビット列、モニタの一画素でしかありえない。本物に見える、本物の味がする(Radiohead - “Fake Plastic Trees”だ、当然)、自ら主体的に考え行動する、でも自分には見向きもしない存在のことを、いつまでも追いかけ続けることができるか? 意識や注目、行動の返ってくることのない相手のことを、それでも気にせず、相手から直接的能動的に報われないままに愛することができるか? まるで車やカメラのような機械、映画や本のような静的メディアへのそれと同じように(その観点で言えばペットは境界上にあり、ロボティクス、AIはさらにその境界をあいまいにするだろう。あるいは意思持たぬ機械を生き物のように感じる人もいるだろうが)。

私には難しい。アイドルを推す人の気持ちが私にはよくわからないのも同じ機構によるのだろう。グッズを積み上げて現場に通いつめ握手会に何度並んだって、相手は1umもこっちのことを認知しないのだから、そんなのむなしいだけじゃないか、そう思ってしまう。なお、地下ドルがファン食いして契約違反で卒業する事例は見なかったことにする。確かにそういうのは実在するんだけど……そういうのじゃなくない!? それで関係持ってもあんま幸せになれるとは思えないし。なってる人もいるんだろうけどさ……相当なメンタルサポート能力が必要だろう。なんにせよ、報われないことはしないほうがいい。現実に見て触れて話せる相手のことを想う方がいい(現場や握手会のことではない)、と。ガチ推し勢には向いてない人間。「独身で交際相手もいないお前にはそんな見て触れて話せる特別な存在もいないだろ」って? それはそう。「そういうことを言ってばかりいるから社会性がないしどんどん孤独になるんだよ」って? ほんとそれな。

When you look at me, what do you see. The answer’s nothing. I have no feeling about you one way or the other. You’re like… like lint or a bottle cap. You’re just a thing to remove.

“The Equalizer”

まあ、ガチ恋ファンなら糸くずや瓶のふたよりはましかもしれない。微笑みかけてくれるし、スパチャに反応してくれるかもしれないし、運が良ければファンサもしてくれるしビームも撃ってくれるかもね。推しにとっての金づるの一人、養分にはなれるのだから。私はあまりそうはなりたくない。(そんなこと言うやつは妻子を養うことでさえもATM扱いとか金づるとか言いそうwwことあるごとにコスパが~とか言ってそうwwww)(まあでも、人と見方によっては婚姻とは合法的な売春であるともいうしさ)

まあなので、単なる一視聴者、よく見るテレビ、よく聞くラジオの出演者としてたしなむ程度に触れるのがいっちゃんいいんだから。それがコンテンツにコミットせずカネを出さずにタダで享受しようとする持続可能性を損ねるテイカー、フリーライダー的な態度だという批判はありうるけどでもそもそも企業や配信者自身のフリーミアムな戦略って面もあるし、あまりに資本主義の走狗すぎる意見だし、とか、引け目があるのは認めるけど一方的な悪者になるほどの悪でもないじゃんとか、ごにょごにょ……。

Posted by squeuei, licensed under CC BY 4.0 except where otherwise noted.